続・創感染率について

続・創感染率について~処置の際、清潔操作は不要!~

 さて、湿潤治療の考えはおわかり頂けたと思います。そして、湿潤治療の考えをしっかり理解できていれば、処置に際して一切の清潔操作は不要です。2004年より外来に訪れた患者さんには一切の清潔操作を廃止し、創傷処置に際して滅菌機器(滅菌セッシ・滅菌ハサミなど)を使用することが激減しました。現在滅菌機器を使用するのは、手術的な処置に準ずる場合…だけですね~…。実際には創傷治療で外来にいらっしゃる患者さんの1~2割程度です。約8割の患者さんは清潔操作をしていません。普通の水道水(生理食塩水の場合もある)で洗浄し、おもむろにガーゼを素手で取って創周囲を拭き、被覆材を滅菌していない普通のハサミで切り、被覆材を創面に置きます。出血や浸出液が多く手に付きそうな場合は、未滅菌のプラスチック手袋を付けて処置します。

注:「清潔操作」とは?
 我々医学の世界では、感染予防のため創部に一切の雑菌を触れさせないように創部の処置をする事を「清潔操作」と言います。具体的にキズの処置で説明しますと、創面を滅菌された水(生理食塩水など)で洗浄し、滅菌されたガーゼを滅菌されたセッシでつかんで、そのガーゼで創面を愛護的に拭きます。滅菌された被覆材を滅菌セッシでつかみ、サイズが異なる場合は滅菌されたハサミで適当なサイズに切りサイズを調整、その被覆材を創面に置きます。なんだかクドイ文章になりましたが、処置の間一切創周囲に手を触れず、すべて滅菌された器具を使用して処置を行うわけです。

 さて、清潔操作は本当に必要なのでしょうか?その答えは以下の発表内容を御覧になって考えてみて下さい。以下の内容は2005年春、中部日本整形外科災害外科学会で発表してきました。

 さて、湿潤治療については御理解頂いたとして、処置方法の変遷に伴い感染率に変化がないか再度検討しました。

・開放群(従来の慣習:消毒してガーゼをあてて乾燥させる)
・清潔閉鎖群(清潔操作をして湿潤治療を行う)
・準清潔閉鎖群(清潔操作をせず素手や未滅菌手袋で湿潤治療を行う)

の内訳です。開放群・清潔閉鎖群については「創感染率」のページで一度説明したとおりです。同じ時期の3ヶ月でカルテをひっくり返して調べてみたら、創傷で来院された患者さんは246例、上記除外項目を考慮して除外すると74例…これだけ見て…(; ̄ー ̄)…ン?…患者さん増えてる…? ケガ人がこんなに増えているというのも変ですから、恐らく「早く」「キレイに」おまけに「痛くなく」治る治療を求めてやってくるのではないか?と考えています。確かに一部に「以前キレイに治ったので!」というリピーターもいらっしゃいますので…!

 余談ですが、セッシやハサミを滅菌するコストも病院にとって馬鹿になりません。これら機器の滅菌量が激減したため、病院にとっては結構コスト削減に役立っているのではないかと思われます。

…で、結果は次の如く…

 上記表を御覧の如く、清潔操作を廃止しても明らかな感染率の上昇は認めませんでした。1.36%→0.56%→1.63%…と見ると「感染率上がった!?」と思われるかもしれませんが、統計学的に有意差は出ておりませんし、実は準清潔操作群は、たまたま感染者が集中した所を取ってしまったらしく、データの信頼性を確保すべく、さらに3ヶ月分のカルテを調べたら、そちらの方には見事感染者0%でした!

 ちょっと衝撃的な内容ですが、別の視点から見ると、実はこの4例の感染者のうち3例は、某科の先生がキズ口を消毒して縫合した例ばかりでした。おまけにキズ口を洗浄したという記述は見当たりませんし、どれもちょっとしたキズばかりでした。湿潤治療の考えを十分理解しているならば、創面を十分洗浄して縫合する…これできっと感染はしないと思います。この3症例はどれも「洗浄が足りなかった」「消毒をした」というのが問題であったと考えられます。

 いかがでしょうか?…創傷処置に清潔操作は必要ですか?

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